北東アジアに平和の灯を!!
Takeuchi Hirokazu, Secretary general of Association of AICHI for the Promotion of Japan-DPRK Exchange in Education and Culture
竹内 宏一
はじめに
この一年、朝鮮半島情勢は大きく動き、いま歴史的な大転換期にある。
私は、昨年9月「朝鮮民主主義人民共和国」(以下、朝鮮)を訪問した。この滞在中の9月3日、平壌で「本日、国は核実験を行い成功した」との話を随行の対文協(朝鮮対外文化連絡協会)の方から聞いた。当時は米朝間での核戦争の危機が叫ばれていた緊迫した情勢下にあった。
しかし、2018年の1年間、朝鮮半島情勢は大きく変容した。3回の南北首脳会談が開かれ、米朝のトップ会談も行われた。朝鮮の金正恩委員長は、朝鮮半島の非核化を言明し、歴史的な韓国訪問も予定されている。朝鮮半島の非核化にむけた道程は始まったばかりであるが、当面朝鮮半島での緊張状態が緩和し、核戦争の危機が回避されたことのみでも大きな意味がある。我々は、この朝鮮半島及び北東アジアでの平和の流れを更に加速し、平和の灯を燈しつづけなければならない。
この朝鮮半島情勢の転換の中で、日本政府やほとんどのマスコミ報道は、まず「北朝鮮」の核放棄が先決であるとしている。しかし、後述するが、今日まで朝鮮は南北関係の緊張状態、米国からの核攻撃への危機感から、自国防衛のため戦略的核開発を続けてきたのであり、朝鮮半島に平和体制が構築され、朝鮮の体制の安全が保障され、朝鮮の人々が安心して暮らせる環境ができれば、何も核を保有する必要はないのである。まず、そのために朝鮮戦争の休戦(戦争)状態を法的に終結させ、米朝間や日朝間で国交正常化が実現し普通の国家関係が築かれれば、核開発は取り止め朝鮮半島の非核化が実現するのである。
一.最近の朝鮮半島をめぐる動き
2018年におきた朝鮮半島をめぐる主な動きについて列記すると、
*1月 1日 金正恩委員長「新年の辞」で『国家核武力の完成、核兵器不使用、他
国を核で脅かさない、南北和解と平昌冬季五輪への参加』を表明した
*2月 韓国平昌での冬季五輪に北からの使節団、代表団が参加した。
*3月 8日 米トランプ米大統領が米朝首脳会談の開催を表明した。
*3月26日 金委員長が中国を電撃訪問し習近平国家主席と首脳会談を開催した。
⇒以降も5月と6月に習近平・金正恩のトップ会談がおこなわれた。
*4月20日 朝鮮労働党中央委員会総会で非核化などの基本方針を決定した(後述)
*4月27日 文在寅大統領と金正恩委員長の南北首脳会談が開かれ「板門店宣言」
が発表され、板門店の軍事境界線を二人が手をつないで越えた。
この宣言の基本的な精神は「南北(北南)は、民族の運命は我々自らが 決定するという民族自主の原則を確認」したことにある。
板門店宣言(要約)
南北は断たれた民族の血をつなぎ、共同の繁栄と自主統一の未来を早める。
既存の合意を履行し、関係改善と信頼の構築をはかる。
南北は軍事的緊張状態を緩和し、戦争の危険を実質的解消にむけ努力していく。
南北は朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制の構築のため積極的に努力する。
朝鮮戦争の休戦状態を終わらせ、平和協定の和解プロセスをすすめ、核のない
朝鮮半島の実現を共通の目標とする
*5月 9日 米ポンペィオ国務長官が訪朝し金委員長と協議、米国民3人を解放。
*5月26日 第2回の南北首脳会談が開催された。
*6月12日 歴史的な米朝首脳会談が開かれ、「米朝共同声明」が発表された。
米朝共同声明(要約)
*トランプ大統領は朝鮮の安全の保証を提供し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な
非核化にたいする揺るぎない意思を再確認した。
*朝鮮半島での恒久的で強固な平和体制を構築するため努力する。
*「板門店宣言」を再確認し、朝鮮半島の非核化にむけ努力する。
*米軍の戦争捕虜および行方不明者の遺骨発掘を行い、遺骨を送還する。
*トランプ大統領と金正恩委員長は、新たな米朝関係の発展、朝鮮半島の平和と
繁栄、安全を促すために協力する
*8月20-26日 南北離散家族再会事業が再開された。(於:朝鮮/金剛山)
*8月下旬~ 米韓合同軍事演習(フリーダムガーディアン)が中止された。
*9月14日 「南北連絡事務所」が開設された。 (於:朝鮮/開城)
*9月18-20日 第3回南北首脳会談が開かれ「9月平壌共同宣言」を発表した。
9月平壌共同宣言(要約)
「板門店宣言」を履行し、南北関係を高い段階へ前進させていくために
1非武装地帯での軍事的な敵対関係を終息させ戦争の危険除去、敵対関係を解消
させる。
2.お互いに共利・共栄の原則で交流と協力を増大させ、民族経済を発展させる。
3.離散家族・親せき問題を解決するために、人道的な協力を一層強化していく。
4.和解と団結の雰囲気を高め、多様な分野の協力と交流を推進していく。
5.朝鮮半島を核兵器と核の脅威のない平和の地盤としていく。そのため必要な進展
を成し遂げる。
この宣言を基に軍事的対立解消にむけた次のような合意がなされたが、
これは実質的な朝鮮戦争の終結を意味するものである。
※、南北の高位級軍事会談で具体的に次のような措置が合意された。
①南北は陸海空、すべての空間で相手方に対する一切の敵対行為を全面的に中止する。
②南北は、非武装地帯を平和地帯にするため実質的な軍事的対策を講ずる。
③南北は、西海の北方限界線一帯を平和水域とし、偶発的な軍事的衝突の防止、安全な
漁労活動を保障する。
④南北は、交流協力並びに接触、必要な軍事的保障対策を講ずる。
⑤南北は、相互の軍事的信頼構築のための多様な措置を講ずる。
⑥この合意書は、必要な手続きを経て、その本文を交換した日から効力が発生する。
2019年
●2月27・28日 2回目の米朝首脳会談
●4月25日 ロシア・朝鮮 首脳会談
●6月20・21日 中国習近平主席の初訪朝
● ? 金正恩委員長 韓国(ソウル)訪問
二.朝鮮の核と朝鮮半島の非核化
1. 朝鮮は、いま現在P5(米・露・英・仏・中)とイスラエル、インド、パキスタンに次ぐ9番目の核保有国となっている。朝鮮は昨年9月3日、6回目の核実験を行い成功した、と発表した。この月の15日には中距離ミサイルを発射した。飛距離は約3,700㎞、高度約800㎞、11月29日には、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15号」を発射した。高度約4,500㎞を飛翔し、日本海の排他的経済水域(EEZ)に着水した。通常の射程飛行なら約13,000㎞であり、米大陸に到達する距離である。
日本列島を飛び越えて発射したこともあり、日本ではJアラート(全国瞬時警報システム)を鳴らし避難誘導や列車を一時止めるなど大騒ぎをしたが、上空800㎞は日本の領域外である。
(*領域の上空圏について宇宙空間の国際的取決めはないが、約100㎞程度が 領域とされている)
2. 今日まで朝鮮の核政策の基本的考えは、米国の核の脅威に曝されてきたことによる自衛的核抑止力の核開発であるとしてきた。
しかし、基本的には、「朝鮮半島の非核化」は、主席(金日成)と総書記(金正日)の遺訓とされており、1992年1月の南北高位級会談では「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」を出している。また、2016年5月に開かれた朝鮮労働党第7次大会決議では、「わが共和国は責任ある核保有国として、… 先に核兵器を使用しない … 核拡散防止の義務を誠実に履行し、世界の非核化のために努力する。」としている。 2011年12月国家指導者となった金正恩委員長のもとで着実に「改革」と「開放」をすすめてきた。その流れの中で、2018年4月20日の労働党中央委員会総会では、経済建設と核武力建設の並進路線から転換し、次のような決議をおこなった。
【*核の兵器化は実現した *核実験中止と核実験場を廃棄する *核の脅威と挑
発がない限り核兵器を使用しない *社会主義経済建設と人民生活向上の闘いに全力を集中する *朝鮮半島と世界の平和のため、周辺国・国際社会との緊密な連携と対話を促進する】
3. 南北首脳会談での「板門店宣言」で提起された朝鮮半島の非核化は、「北」地域のみの非核化ではなく、朝鮮半島全域での非核化であり、同時に朝鮮半島とその周辺の非核化をも意味しなければならない。
米軍は所謂「曖昧戦略」といい、各部隊や施設内において戦術核を持っているか否かについては明確にしていない。在韓米軍も在日米軍も核を持っているか否かは定かではなく、従って朝鮮半島の非核化を実現する際には北の地域のみでなく、南にある在韓米軍を査察の対象にしなければならない。同時に在日米軍は朝鮮にとって大きな脅威であり、在日米軍も本来なら当然査察対象とすべき存在である。
当面、在韓米軍の査察をしっかりとおこない、空母や原子力潜水艦、F-35戦闘機、戦略爆撃機B-52など核を持っている可能性がある軍備について核不保持を明確に
しなければならない。
さらに日本が潜在的な核保有国であることを認識しなければならない。
日本が保有しているプルトニウムは、国内では10.5トン、英・仏に委託している再処理工場では約36.7トン、合わせて約47トン、原爆に換算すると約6000発であり、核保有国の5大国以外では日本が最大の潜在的核保有国となっている。
日本は非核兵器国であるが、日米原子力協定によって核兵器に転用しないことを条件に、ウラン燃料の濃縮や使用済核燃料の再処理が認められている。
日米原子力協定が、平和利用目的でプルトニウムを取り出すことができる根拠となっているが、この協定は1988年7月に発効し2018年7月、30年の満期を迎えた。本来廃止すればよいのであるが、自動延長されて現在も有効となっている。
4.2018年6月の「米朝共同宣言」はたいへん短い文となっており、否定的な見方も出ているが、70年ほど敵対関係にあった米朝首脳が史上初めて会談をもったこと、米朝間で朝鮮半島の平和に関する新たな国家関係樹立と朝鮮半島の完全な非核化を確認したことは歴史的な意義をもっている。
それ以降、公式・非公式に米朝の話合いが行われているが、南北関係の進展に比べて、現状「朝鮮半島の非核化」への道が進んでいないようである。
根底には、長年の米朝間の相互不信があり、米朝共同宣言における相互信頼構築と朝鮮戦争の終結及び平和協定による朝鮮の法的・制度的体制保証、朝鮮の完全な非核化が前提となる
米国は、朝鮮戦争の終結、その法的措置としての平和協定が在韓米軍の撤退、連動して在日米軍の撤退につながることを危惧している。
当面、米韓合同軍事演習は中止されたが、その再開も視野の中にある。
一方、朝鮮側は、保有する核兵器の現状について公開していない。核施設の廃棄も一部に留まっている。核兵器の完全な廃止措置にむけては、核拡散防止条約(NPT)に復帰し、国際原子力機関(IAEA)への核申告と査察の受入れをしなければならない。
5.米朝国交正常化への道は、このような状況のもと、行動対行動の原則により同時に進めていくしかない。
まず、朝鮮戦争の休戦状態の集結を宣言し、その後の法的措置は、朝鮮側の段階
的な非核化措置 (非核化措置は技術的にも数年を必要とする)と併行して進めていくことである。朝鮮戦争の休戦協定は、国連軍(実質米軍)と朝鮮、中国との間で結ばれたものであり、この三者の会談が必要である。
米国と朝鮮は、双方の連絡事務所を設置し、人的交流や交易促進など普通の国家関係を構築していくことである。ただ、朝鮮半島の非核化実施には、米朝双方ともCTBT(包括的核実験禁止条約)を批准することである。朝鮮は「核兵器禁止条約」の朝鮮半島への適用も認めている。
三.日朝関係の正常化にむけて
1 安倍政権による朝鮮敵視
① 軍備増強政策
安倍政権は、「我が国をとりまく安全保障環境はますます厳しくなっている」と呪文のように言っている。「北朝鮮」危機をあおり、それを口実に軍備増強路線をすすめてきた。朝鮮半島情勢が大きく平和の方向に歩み出しているにも拘わらずである。
最近の情勢の特徴として、軍事費の増大がある。「軍事(防衛)費1%枠」(日本の防衛費をGNPの1%以下に抑制する政策)は完全に形骸化し、2019年度以降の「防衛計画大綱」によれば、今後5年間で約27兆4700億円が予定されている。この中には射程約1000㎞で地上発射型の迎撃ミサイル・システム「イージス・アショア」の配備に関する経費も含まれている。海上自衛隊のヘリ搭載護衛艦「いずも」型はF-35Bステルス戦闘機の発着も可能となるよう改造するということで、完全に空母艦として機能させる。
更に対朝鮮、対中国を想定して、「水陸機動団」という日本版海兵隊を発足させた。
また、日本の情報収集偵察衛星が打ち上げられており、朝鮮半島の上空を毎日通過し撮影している。新聞などの報道では情報収集衛星となっているが、実体は偵察(スパイ)衛星である。 普通の衛星はJAXA(宇宙航空研究開発機構)が種子島から打ち上げているが、この偵察衛星は内閣情報調査室が管理運営しており、スパイ活動を目的にしている。
②朝鮮への「制裁」措置
日朝間の対話をすすめていくうえで、日本政府が為すべきことがある。
一つは、日本政府は日本独自の「制裁」措置を解除しなくてはならない。朝鮮側に対して、口では話し合おうと言っておきながら、相手に喧嘩を売った状態のまま話し合いをすることはできない。
国連安保理でも朝鮮に対する経済「制裁」等の決議がなされているが、文在寅大統領は10月15日、仏のマクロン大統領に会うと、“国連安保理の対朝鮮経済「制裁」を緩和してほしい”と要請した。
安倍首相は対話と協調、平和をつくろうとする情勢のなかで、表向きはさすがに「制裁」一本というわけにはいかなくなったが、「制裁」を緩和するということは一言も言っていない。ましてや日本独自の「制裁」措置を緩和するような動きは今のところ見られないという状況である。日朝交渉を少しでも進めていこうとするならば、最初におこなうのは安保理の「制裁」以外の日本独自の「制裁」措置をまず解除しなければならない。日本独自の「制裁」措置を解除することが日朝交渉を始める前提となる。
【国連による主な「制裁」措置)】
2 日朝関係の早期正常化にむけて
「日朝平壌宣言」と「ストックホルム合意」の実施(この宣言と合意の要約は9頁を参照)
安倍政権による従来の「圧力一辺倒」路線は完全に破綻したことは明白である。
では日本政府はどのようにすべきでしょうか。
まず「日朝平壌宣言」(2002年9月)と「日朝政府間合意(ストックホルム合意)」(2014年5月)の実施にむけた日朝政府間協議の再開、「制裁」措置の解除、朝鮮高校への授業料無償化適用などをおこなっていくところからはじめなければならない。
「日朝平壌宣言」や「ストックホルム合意」の内容は外交文書として包括的なすぐれた文書となっている。「日朝平壌宣言」では、日本の過去の植民地支配に対する謝罪や戦争や戦後の混乱の中で多くの日本人が朝鮮の地で亡くなっているため、遺骨の発掘や調査をすることも明確に記されている。
私が関わっている「日朝教育・文化交流をすすめる愛知の会」は、2018年9月25日、日朝平壌宣言を実施させる趣旨で、「日朝国交正常化の早期実現を求める要請書」を安倍首相と河野太郎外相宛におくった。
② 日本の非核化
「核兵器禁止条約」は2017年7月、国連で122か国・地域の賛成で成立した。内容は核兵器のない世界をめざし、核兵器の開発、実験、生産、製造、備蓄、移譲及び威嚇による使用などを禁止するもので、同年9月20日に各国の署名がはじまり、50ケ国の批准を得て発効することになっている。
日本政府は、この核兵器禁止条約に反対し署名をしていない。被爆国である日本が核兵器禁止条約に反対するというのは論外であり、朝鮮半島を非核化する場合、日本の非核化、核兵器禁止条約の批准も重要な課題である。
③ 拉致問題の解決
日本政府認定の「拉致」された対象者は当初17名であったが、5名は小泉訪朝によって帰国し、従って公式には12名が日本政府認定の「拉致」被害者となっている。
朝鮮は「ストックホルム合意」によって朝鮮にいる対象者の調査をおこない、その調査した結果を2016年、日本政府に非公式に報告している。ところが、伝え聞くところによると日本政府は朝鮮の報告書の受取りを拒否したとのことである。報告書の内容が8名は死亡、4名は入国していないという回答だということで拒否をしたのである。
日本政府が報告書の受取りを拒否したことにより、日朝間のパイプは完全につまっているのが現在の状態である。まずは朝鮮が調査した結果の報告書を日本政府が受取り、報告内容に疑義があるならば日朝間で協議するとか調査団を派遣するなどすべきだと思う。
安倍首相は、“拉致問題の解決なくして日朝国交正常化はない”ということをお題目のように唱えることが今日までつづいてきた。「拉致問題」の全面的解決を前提とするならば日朝交渉はいつまでたっても始まらないことになる。安倍首相は日朝交渉をしようと口先では言っているが、「制裁」措置も解除せず、「拉致」問題の解決がまず先だと主張しており、実際に日朝交渉する気があるのか疑問と思わざるをえない。
私は、日朝国交正常化交渉と並行して「拉致」問題も話し合いをすすめていくべきであり、少なくとも「拉致」問題の解決が前提であるという考えを変えなければ、日朝間の交渉は始まらないと考えている。
また「拉致」問題の解決というときに、何が解決になるのか中身を明確にしなくてはならない。公式に伝え聞くところによると、12名の対象者全員が生存して日本に帰ってくることが前提としてあるようであるが、全員が生存しているかどうか定かではない。拉致被害者ご家族の期待・気持ちと政治判断は分けて考えなければならない。
まず「拉致」問題の解決とはどのようなことかということを明確にさせ、次に「ストックホルム合意」をうけて調査した朝鮮の報告を受取るところから日朝関係が始まるということである。
④ 朝鮮への賠償責任を果たすこと
朝鮮との関係で重要なことは、「日朝平壌宣言」にも明記しているように、植民地支配と戦後の朝鮮分断に対する日本の責任を自覚し、それに対して賠償することを明確化することである。賠償義務を日本は負っていることをマスコミ等は一切報道していない。何か、朝鮮側が経済援助を欲しがっているかの報道がなされているが、日本に賠償義務があることをしっかりと銘記すべきである。
1965年、「日韓基本条約」が締結された。 この日韓基本条約は日本の賠償責任や植民地支配のことなどを曖昧にするなど多くの問題を内包しており、当時も大きな日韓条約反対運動がおきた。この日韓条約反対運動は名古屋でもあり、私は国鉄名駅構内での座り込み闘争に参加した経験をもっている。
日韓基本条約では当時のお金で日本は韓国に無償3億ドル、有償2億ドル、その他の民間の借款などをあわせて10億ドルを超える融資を決めている。日朝交渉をする場合には、この日韓基本条約が一つの参考となるが、今日の金額で換算すると大きな金額になる。日本は朝鮮の人々に対して賠償する責任を負っているということを明確化することも、日朝交渉の前進につながる。
日朝国交正常化に向け、平壌に日本の連絡事務所を設置するのも一つの方法である。
いずれにしても日朝友好運動、国交国交正常化運動と非核・平和の運動を一体のものとしてとらえ、安倍内閣の対朝鮮政策を転換させていく運動を地域からおこしていくことが重要である。
結びにあたって
1.この1ケ年間の朝鮮半島の劇的な変容を考える場合、韓国における文在寅大統領の誕生を抜きにして語ることはできない。二代続いた金大中・蘆武鉉政権で南北関係は融和状態になってきたが、その後の保守政権 ― 李博明・朴槿惠 ― が反共、反北韓をかかげ、南北対話に背をむけてきた。この朴政権の腐敗がキッカケとなって2016年秋から2017年春にかけて「キャンドル市民革命」の大波がおき、これが文在寅大統領を生み出す原動力となった。この韓国内で起きた集会・デモの参加者は延べで約1700万人となっているが、この大きな変化についても記さなければならない。
2.朝鮮に完全な非核化を求めるなら、世界の核兵器の現状と国連での「核兵器禁止条約」の採択、それへの主要国の対応についても記さなければならない。
朝鮮半島を含む北東アジアの「非核地帯化宣言」の実現も大きな課題である。
3.朝鮮半島の分断には日本の責任も大である。
1910年「朝鮮併合」から1945年までの植民地支配時代の清算が出来ていないこと、朝鮮半島が何故分断されたのか ? 戦争末期から日本の敗戦にかけ、日本のポツダム宣言受諾による降伏の時期が少し早ければ朝鮮半島の分断はなかった。
また、朝鮮戦争にあたっては、日本が後方基地として、准参戦国として、米国の側に立って重要な役割を果たした。
これらの諸テーマについては、紙数の都合上割愛せざるをえなかったことを付記する。
「日朝平壌宣言」(要約) 2002年9月17日
双方は、国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注することとし、そのために国交正常化交渉を再開する。
日本側は、過去の植民地支配によって朝鮮の人々に多大な損害と苦痛を与えた歴史的事実を、痛切な反省と心からのお詫びの気持を表明した。
双方は、1945年8月以前に生じた事由基づく財産・請求権を相互に放棄する。
日本側は、朝鮮に対して、この宣言の精神をもとに、国交正常化交渉において経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議する。
双方は、在日朝鮮人の地位に関する問題、文化財の問題について協議する。
双方は、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した。
また、日本国民の生命と安全にかかわる懸案事項について、朝鮮側は適切な 措置をとることを確認した。
双方は、北東アジア地域の平和の安定、維持、強化のため努力する。
双方は、朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関係諸国間の対話を促進し問題解決の促進を図ることを確認した。
日朝政府間協議(ストックホルム合意) *要約 2014年5月30日
双方は、日朝平壌宣言に則って、懸案事項を解決し、国交正常化を実現するため真摯に 協議した。
日本側は、
北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地、残留日本人(日本人配偶者)、拉致被害者及び行方不明者に関する調査を要請した。
朝鮮側は
全ての日本人に関する調査を包括的・全面的に実施し、すべての問題を解決する意思を
表明した。この調査は、全ての分野について同時並行的に行うこととした。
― 以下具体的な措置が記述されている。<略> ―
Abstract
Light for Peace on the North-east Asia!
Situation on the Korean peninsula and Japan-DPRK relations
There has been a big change in the situation on Korean peninsula in 2018.
Three rounds of North-South summit meetings and a DPRK-US summit took place.
The journey towards the denuclearization has just begun, but it is very significant that detente began and one can avoid nuclear war crisis on the Korean peninsula.
We should further accelerate the stream for peace on the Korean peninsula and in the northeast Asian region and lighten up the torch for peace.
I. Recent moves around Korean peninsula.
II. Nuclear power of DPRK and denuclearization on the Korean peninsula
1. DPRK is the 9th nuclear state along with P5 (US. Russia, Britain, France, China) as well as Israel, India, Pakistan.
2. The denuclearization on the Korean peninsula is the behest of President Kim Il Sung and General Secretary Kim Jong Il, and the North and the South agreed in its high-level meeting for the joint statement on the denuclearization on the Korean peninsula in January, 1991. DPRK stated during its 7th Congress of Workers' Party of Korea that she, as a responsible nuclear state, will not first use nuclear weapons and will implement the duties for nuclear non-proliferation and will strive for denuclearization of the world.
3. "Panmunjom declaration" adopted during the North-South summit meeting means that denuclearization on the Korean peninsula does not only mean the denuclearization in the "North" but comprises whole peninsula and its surrounding region.
4. Even though the DPRK-US Joint Statement adopted in June, 2018 is formed with a few short sentences and some people expressed negative attitudes, it has a historic significance since it is a first summit meeting and both sides confirmed for the establishment of new state relations and denuclearization on the Korean peninsula.
III. The normalization of relations between Japan and DPRK.
1. The hostility of Abe government towards DPRK.
① The policy of arms build-up.
Abe government took an advantage of "north Korea crisis" for its policy of building up the military forces. They do not care of the trend for peace on the Korean peninsula.
The policy limiting the defence expenditure under 1% of GDP has totally lost its validity, and the defence budget is expected 27 trillion 470 billion ¥ for the period of 5 years according to "Program of Defence Plan" after 2019.
② "Sanctions" on DPRK.
There is one thing that Japanese should consider in promoting dialogue between DPRK and Japan. Japan should ease its unilateral sanctions on DPRK. If Japanese government intends to advance even a bit further the negotiation between two countries, it should put an end to its own sanctions apart from "sanctions" imposed by UNSC.
2. For the early stage of normalization of relations between Japan and DPRK.
① Implementation of "Japan-DPRK Pyongyang Declaration" and "Stockholm Agreement"
First step is to resume Japan-DPRK negotiation to implement "Japan-DPRK Pyongyang Declaration"(September 2002) and "Japan-DPRK Government Agreement (Stockholm Agreement)"(May 2014) and ease "sanctions" and application of free school fee to Korean schools.
② Denuclearization of Japan
"Nuclear Ban Treaty" was signed by 122 countries and regions in U.N. in July 2017.
However, Japan opposed signing on this treaty. It is unthinkable for Japan, a nuclear victim state, oppose Nuclear Ban Treaty, and denuclearization and signing on the Nuclear Ban Treaty are important issues, once denuclearization on the Korean peninsula begins.
③ Settlement of Abduction Issues.
Prime minister Abe is talking about Japan-DPRK dialogue without easing the " sanctions", arguing "Abduction issues" should come first, and there is a big doubt if he is sincere in his intention for the dialogue.
④ What is important in the relation with DPRK, as stated in "Japan-DPRK Pyongyang Declaration", is that Japan should be conscious of its responsibility on its colonial rule and division of Korean peninsula and make it clear that it compensates for it. Media ignores this fact and never mentions it.
Media is reporting as if DPRK hopes for economic assistance, but it should clearly report Japanese duty of compensation.